私にとってのTOUCH

くつろぎの時間を科学する コラム

私にとってのTOUCH

2017/02/10

思わず触りたくなるタオルがあるように、見た目だけでなく、触ってみたくなるような素材感は、実はインテリアデザインの世界においても、非常に重要なファクターである。
六本木ヒルズ「TOUCH」が、オープンから変わらずに愛され続けている大きな理由は、植木莞爾氏が手掛けた店内設計によるところが大きい。
「この店は、実は住宅を想定して設計しています。ショップ入り口のエントランスは、外から家の中に入る玄関をイメージし、次に家の中に入ると、部屋があり、さらにパーティションがあり、その向こうに外が見えるというような、ショップだけれどショップではない、そんな雰囲気を目指しました。素材も、外を感じさせる部分は溶岩のタイル、室内は木の床にし、素材で部屋の特徴を表現しています。この店が醸す何となく包まれた感じの印象は、随所に家をイメージさせるということと、やはり白という色の持つ力かもしれません」
植木氏自身、朝起きて顔を洗って拭くタオルから、夜お風呂に入って体を拭くタオルまで、実はタオルが非常に生活に密着したモノであり、いろいろなモノにかかわっている商品だということを、この店舗を設計して改めて感じたのだという。タオルを単品として捉えるのではなく、タオルの周りにあるモノ、置くモノを考えていけばそれが自然と商品構成にもなっていく。
店内は白を基調に、さまざまなニュアンスの素材を組み合わせた空間だが、植木氏自身、やはり白には思い入れやこだわりがある。
「白という色は、素材によって色が変わります。タオルもそうですが、さまざまな織り方で同じ白でも違う色に見えますし、逆にこれだけ白が並ぶと、自分の好きな白というのも見えてくる。色は1つでも、実はたくさんあるという、一種トリックにかかったような不思議な感覚に陥ります。白だけど白じゃないというような……」
デザイナーにとって白は究極。タオルにとっても白は究極。
「設計するときのもうひとつの核としては、店名にもあるタッチ、つまり触って感じることを意識しました。実際には触らなくても、触ったらこんな感じなのではと思わせる色と素材を選んでいます。塗った白とナチュラルな白では当然印象も違いますし、この白の空間の中に、白いタオルを入れることで、さらにタオルが上質に見える、まさしく相乗効果です」

木肌のテーブルやディスプレイ棚

ヨーロッパのようにいつまでも変わらない店

オープンから8年。改めて「TOUCH」というショップについて、デザイナーの立場から見てみると……。
「店のデザインを設計し終えたあとは、デザイナーがあれこれ言う立場にはないと思いますし、あとは店を運営していく方々が維持していくわけですが、それでも『TOUCH』はレイアウトなども非常にうまくて、開店当初の設計のイメージを、うまく維持しているショップだと思います。あまりコロコロ気持ちを変えないで、最初のコンセプト通りにしていれば、その方がきっといい店になります。たとえば、ヨーロッパにはずっと何十年も変わらず、同じような商品の並べ方でも十分魅力的なお店がたくさんありますが、意外に日本にはそういう店が少ない。ファッションに流されたり、変えたりすることが多いなかで、この店はそういう意味で非常にヨーロッパ的な雰囲気がありますね。たぶん、こういう店は変わらないし、古くならないと思います」。
デザインしているけれど、あまりデザインしてないように見せるデザイン。この微妙なニュアンスを、理解してくれるオーナーは非常に少ない。特に、流行のショップなどは1年くらいで新しく変えたがるので、なかなか固定客も安定しないらしい。しかし、ここは、むしろ変える必要のないデザインの店であり、同じ空間でも新しい商品を置くだけで、また新しく感じられるという、普遍の強さを持ったショップなのだという。
「よく、男性でも足を踏み入れやすいショップだと言われることが多いのですが、やはりそれは素材感が大きく影響しているでしょうね。この『TOUCH』店内の重要なデザインポイントになっている木肌のテーブルやディスプレイ棚は、実は試作から生まれた偶然の産物で、通常はのこぎりで切った後、凹凸が残るので、そこをさらにかんなで削りキレイに整えるのですが、意外にこの凹凸感が白のさまざまな表情を引き出してくれました。初めてこの店に来た人は、まずタオルと店内の素材の白との関連性が、非常にマッチングしているので、とても落ち着いた気持ちになれるのだと思います」 
 植木氏の思いと「TOUCH」のコンセプトが織り合って、重なって生まれたライフスタイルショップ。主張しすぎない店舗、負けない商品力で、これから「TOUCH」はどう変わって、どう変わらないのか。植木氏も、デザイナーとして、1人の消費者として、この店を長く見届けていたい、そんな思いを寄せている。

タオルを中心とした、癒しのバスタイムを提案するショップとして六本木ヒルズに誕生した「TOUCH」店舗内観



植木 莞爾(うえき かんじ) インテリアデザイナー
慶応義塾大学商学部卒業。卒業後渡伊。ミラノ リナシェンテ デパート本店デザイン室入社。ミラノ アルド ヤコベル建築設計事務所。イタリアより帰国後 カザッポアンドアソシエイツ 設立。 現在に至る。

※掲載内容は『TOUCHが考えるちょっと知的なバスタイム』発行当時(2011年)のまま掲載しております。


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